選書 at 本屋B&B
日程 / Date
2024.9.21-10.4
场所 / Place
本屋B&B(下北沢)
『茶酔叢書 巻二』の刊行に合わせ、制作の中でインスピレーションを受けた本を選書し、紹介しました。
茶についての本は一冊もありませんが、「庭」「神話」「物語」「日常」というテーマで、茶酔叢書に繋がっていきます。
『動いている庭』ジル・クレマン(みすず書房)
建築、デザイン、哲学など各方面から参照される名著。茶酔の茶会も、本書からインスピレーションを得ています。
クレマンは庭を常に変化する自然の一部とし、植物が生い茂るのに逆らわずに合わせていく。そんなクレマンの庭のように、茶酔の茶会は人を押し込めるルールや作法を取り払い、人がうろうろ移動したり頻繁に自由に出入りする。鳥や虫が花粉や種を運んでくるかのように人が話のタネを運んできて、それを繁茂させるように茶を煎れたり新しい茶葉を投入したりする。茶会をするとき、いつも理想系は「動いている茶会」です。
『オーウェルの薔薇』レベッカ・ソルニット(岩波書店)
「戦争の反意語があるなら、時には庭がそれに当たるのかもしれない。」という一節が大好きです。人間が自然を支配し、土地を所有し、領土を争って戦争する。それに対して庭は人が出入りしたり見ていて癒されたり、自然を管理しつつも共生する象徴のよう(著者がそういう意味で書いたかはわかりませんが)。茶酔の茶会もそんな庭に勝手にシンパシーを感じていました。茶会が庭のようなら、戦争の反意語は時には茶会でもあるはず。「マンスプレイニング」という言葉を世に広めたことでも有名なソルニットの言語感覚を存分に味わえるエッセイです。
『三体』劉慈欣(ハヤカワ文庫SF)
中国SFの金字塔。SFをほぼ読んだことがない私が中国茶SFマンガを作るにあたり中国SFに挑戦したところ、結果、SFへの固定観念が破壊されました。リアルすぎてSFというより、これから起きる未来の歴史の話みたい。現行の科学技術の、みんなが宇宙を目指しAIが生活に浸透していく感じも相まって、もう現実としか思えない。
そして去年初めて行った中国で感じた途方もないスケールの大きさとも通ずる。広大な土地に宇宙から来たとしか思えないような巨大な建築が立っている。「中国ならあり得るかも知れない…」そう思わずにはいられない。それくらい中国に引きつけて読んだので、Netflix版ではなく原作もおすすめです。
『口訳 古事記』町田康(講談社)
爆笑。くだけた関西弁で日本の神話を読み直すと、本当におかしくて声を出して笑ってしまう。『古事記』はお勉強という印象だったけど、昔の人はある意味エンタメとして面白おかしく語り伝えてきたんじゃないだろうか。関西弁も独特の可笑しみがあるけど、そもそも古事記が書かれたのは関西で、ずっと日本の文化の中心だった。そう考えると東京弁ではなく関西弁で訳されるのは至極真っ当とも思える。神話というのは物語でありながら歴史のようで、こうしてルーツについて考えてしまう。史実から自由になった歴史上の日本の神様たちは案外俗っぽくて親しみやすい。そんな神々ともう一度距離を縮められる一冊。
『道を歩けば、神話 ベトナム・ラオス つながりの民族誌』樫永真佐夫(左右社)
神話はギリシャ神話と古事記はかろうじて知っている。でも当たり前だけど、その他にも世界中にはいろんな神話がある。中国と国境隣接するこの地域では、国境以前から様々な少数民族が暮らしていて、茶のバリエーションも多岐にわたる。この地域の神話は中国との関係で取捨選択されていくのも面白い。日本の神話は身近すぎて生活の中で気づけないが、観光客からしたら日本の神話もこんな風に道を歩けばそこら中に見られるのかもしれない。
『コード・ブッダ:機械仏教史縁起』円城塔(文藝春秋)
科学技術は神秘性のベールを取り払ってロマンを消し去ってしまうもの、というイメージを完全に壊してくれる円城塔さんの最新作。開発苦労話の類まで仏教説話のような語り口でミステリアスに展開され、現代を遥か遠い未来から振り返ったかのようなムードを感じることができる。chatGPTに皆がときめいたのは、ブレイクスルーやイノベーションという言葉では捉えきれない、何か魔術性があったからなのかもしれない。
『言葉と歩く日記』多和田葉子(岩波新書)
「この日記をつけ始めたきっかけは、言語について毎日考えているわたしが、いざ言語について本を書こうとすると何も書けないことに気づいたことにある。(中略)その原因の一つはおそらく、わたしにとって言語というものが他のテーマと結びつき、身体にうったえてくる時のみ、意味を持つということなのだろう。」
私は茶について思っていたことを完璧に言葉にしてもらったように感じて、『茶酔叢書』では茶の解説をある意味放棄し、生活の中でどう茶を飲んでいるかを書くことにしました。「酔う」という言葉についてのパートも面白いです。
『在野研究ビギナーズ』荒木優太(明石書店)
「偏ってないひとつの指南より、偏ったたくさんの実例」。働きながら何か活動をしている人の話は聞くだけで勇気をもらえます。働き者ラジオというポッドキャストが大好きで、そこからこの本を知ったのですが、パーソナリティーでもある工藤郁子さんの「戦略として自立し、戦術として群れよう」は大切にしている金言。求職のための研究をする必要のない在野研究者は、失敗のリスクが大きいエリアにチャレンジできるのだという。茶酔も全員が別に本業があるなかで、面白い動きをしたいし、本書は「何が面白い動きなのか」の参考になります。
『えんちゃんち』最後の手段
傑作にして怪作!『茶酔叢書』でマンガを描いてもらっている最後の手段の描き下ろしマンガ。当時WEB掲載していたこの前身となる作品を見て感動し、茶酔マンガをオファーさせてもらいました。新規ページも追加されて書籍になり、凄まじさに拍車がかかっています。大地と宇宙とつながる、というか宇宙そのものを読んでいるかのよう。頭の中どうなってるんだ〜と思いながら何回も読んでしまいました。