【略略茶酔日記】白井瞭
「略略茶酔日記」は、茶葉を送ってその茶を飲んだ日の日記を書いてもらう、茶葉と日記の交換企画。茶葉の名前や説明は一切伝えず、自由に飲んでもらいます。日常の延長線上でカジュアルに茶を楽しむ「現代の茶の略」の実例を収集するシリーズです。
12月27日
朝9時。浄水器をつけた水道の蛇口から、やかんに水を入れてお湯を沸かす。お茶パックに茶葉を入れて、沸騰したお湯を水筒に入れる。お湯を注いだら、蓋を開けたままにして、身支度をする。THERMOSの水筒は保温性能が優秀すぎて、すぐに閉めると、飲むときにいつまで経ってもやけどするくらい熱い。水筒を車のカップホルダーに入れたら出発。今回は関西にあるパートナーの実家への帰省にかこつけて、周辺に足を伸ばしてみようと思っている。
まずは大阪に向けて、約7時間ほどのドライブ。パートナーと交代で運転するので、長丁場でもそれほどつらくはない。合間にお茶をすする。思えば、コロナ禍になる前は水筒を使うこともあまりなかった。コンビニや自販機で間に合わせで買うよりも、自分の家でいれたお茶やコーヒーの方がおいしいから、出張や旅行など長時間、外を出歩くときには、水筒を持ち歩くようにしている。とくに寒い冬は温かいお茶が飲めるだけで、どこにいても少し落ち着く気がする。ニュートラルポジションに戻す感覚。
ホテル近くの駐車場に車を停めて、電車で移動する。高知県佐川町にある図書館さくとの設計で協働した森下大右さんの事務所の忘年会にお邪魔した。森下さんのまわりで、建築にかかわるいろいろな方々をご紹介いただく。インテリアデザイナーの方がつくってくれたやきそばがおいしかった。事務所から先に失礼して、そのまま歩いて、2件目のUMA/design farmとMUESUMの忘年会へ。参加するのは今年で2回目だけれど、協働させてもらった方々も少しずつ増えてきて、去年にも増して、心置きなく話せた。
たまたま外国語の話しをしていたら、アプリのDuolingoで勉強している人が増えているらしい。8年ぶりに会ったアムステルダム時代の友人のパートナーもDuolingoでイタリア語を勉強していると聞いて、アプリを入れたままにしていたことを思い出して、その場で始めてみる。ここ最近、海外に目を向けている人が増えた気がする。ビールとハイボールを飲みすぎて、完全に酔っ払っていたので、タクシーに相乗りして、ホテルへ帰った。部屋に置いていった水筒のお茶は、まだほんのり温かかった。
12月28日
ホテルのポットで湯を沸かす。1泊2日の出張では1日目だけ水筒でお茶を飲んで、2日目は現地で適当に買ってしまうことが多いけれど、今回は比較的長い帰省だったので、小分けにした茶葉と、自宅にあったお茶パックをいくつか持ち込んだ。ホテルにお箸がなく、お茶パックは水筒にいれたままにしておくしかなかったので、茶葉はなんとなく気持ち少なめにしていれた。
お昼に中華料理を食べてから、「ギャラリーはこ益」に行く。去年も年末にお邪魔した。この日は、先日割ってしまったお茶碗とお皿を買う。その後は神戸に移動して「bota」へ。たまたまこの日、店頭にいたのがオリジナルブレンドティーの制作をしている方だった。「明日、初めて淡路島に行くんですよ」と言うと、「淡路島は“香りの島”って呼ばれてるんですよ」と言われる。なんでもお香の生産量が日本一で、香りの素材になる農作物の生産も盛んに行われているらしい。明日への期待が膨らむ。そのまま「VAGUE KOBE」に足を伸ばし、お香を買って、足早にパートナーの実家に戻った。甥っ子と一緒に、恐竜化石発掘カードゲームをして遊ぶ。数枚のカードにばらばらになった恐竜の化石を組みあわせるパズルゲーム。夕飯を食べた後は、Nintendo Switchで釣りのゲームをした。甥っ子は最近、魚にハマっている。
12月29日
いろはすをドボドボとポットに入れて湯を沸かす。今日も水筒にお茶をいれて、出発した。淡路島に行く前に、最近、第二子が生まれたパートナーの友人宅にお邪魔する。長男の子がおもむろに被ったのは、手づくりのさかなクンの帽子。図鑑の写真や絵を真似て、魚の絵を描くのが日課らしい。好きな魚の絵を一通り披露してもらったあと、お父さんのスマートフォンを借りてきて見せてくれたのが、いきものコレクションアプリ「BIOME」だった。いきものの名前判定AIを搭載した図鑑アプリで、発見したり育てたりしているいきものの写真を記録できる。名前は聞いたことがあったけれど、実際に使っている子どもを見たのは初めてだった。「iNaturalist」という同種のオープンソースのアプリを、佐川町の図書館さくとでのワークショップで使おうとしていたので、どんなふうに使っているのかを興味津津で見せてもらう。どうやら世界のいきものの記録量はiNaturalistの方が勝っていそうだけれど、BIOMEの方がクエストなどのゲーミフィケーションが充実していて、明解なUIが子どもにも使いやすそうだった。
友人宅を後にして、新神戸駅で別の友人たちを拾って、淡路島に向かう。今回は建築家の板坂留五ちゃんが、西澤徹夫さんと共同設計した店舗兼住宅の半麦ハットを案内してもらって、一緒にご飯を食べる。半麦ハットで留五ちゃんを拾って、まずは一棟貸しの別荘「WORM」に顔を出す。オーナーの置田陽介さんが別荘内や小さなガーデンを案内してくれた。グラフィックデザインを起点にしながら、宿泊施設のオーナーに農家まで。軽やかさと地道さが共存している。夕飯までは少し時間があったので、自家栽培した農作物と加工品の直売所兼カフェ「farm studio」でお茶を飲む。古民家の窓から見える海を眺めながら、秋のブレンドで一息ついた。コーヒーは一日2〜3杯くらいしか飲めないけれど、お茶は何度飲んでもいいのがありがたい。
日が暮れる前に、半麦ハットに戻って、細やかな設計の意図を聞きながら、ぐるりと案内してもらう。ふたつの山のような形状をした温室の中心に、見えない内部としての寝室や水回りがあり、半円上に店舗とリビングスペースとが配置されている。周囲の環境からサンプリングされた素材が、実際に建築に反映され、ものとものとが関係し合うなかでチューニングされる。少し大胆にも思える設定でありながら、使われ方や素材と素直に向き合おうとする姿勢によって、ふしぎなバランスが保たれていた。年月が経ち、暮らし、働く様子が見え隠れするその空間は細やかな設計によって、いまもささやかに彩られている。留五ちゃんのご両親が用意してくれていた食材に加えて、スーパーでみんなで魚や野菜、飲み物を買い出しに。乾杯する頃には日はとっぷりと暮れていた。淡路島の野菜はどれもおいしかったけれど、かぶを一口ほおばると、やさしい甘さと柔らかさに驚いた。半麦ハットで留五ちゃんのお母さん、お父さん、友人たちと過ごす夜は忘れられない美しいものだった。帰りは友人を三宮で見送って、酔っ払って寝てしまった助手席のパートナーを横目に、ときどき水筒のお茶をすすりながら、実家への家路についた。
12月30日
まだ眠い目を擦っている甥っ子に「またね」と声をかけて、朝7時半に出発する。吐く息が白くて、車のハンドルが冷たい。水筒にいれたお茶を何度もすすりながら、伊勢を目指した。しんと冷たい日には熱いお茶がとびきり合う。日が昇っていくにつれて、身体も一緒に起きてくる。コーヒーがマニュアル車のようにギアを1速、2速、3速と次々と変えていくものなら、お茶は自転車をゆっくりと漕ぎ出すようなものかもしれない。身体の芯から温まっていく慣性のまま、頭が冴えていく感覚が心地よい。
伊勢神宮の外宮にお参りしてから、伊勢うどんのお店に入る。地元の人が「一緒にどうぞ」と言ってくれて相席することになった。聞けば、伊勢神宮のお手洗いの掃除を20年近くにわたって、ボランティアでやってきたという。店内にはカレーうどんの匂いが漂っていたけれど、「ここは中華そばが美味しいのよ」と言われて、パートナーと2人で伊勢うどんと中華そばを分けて食べた。次は内宮。自分も含めた参拝客の多さに少し圧倒されながらも、この場所に漂うどこかピンと張り詰めた空気が気持ちよかった。来年は少しでも平和な世の中になればと願いながら、新年用に御神酒を買って車へと戻った。
助手席に座っているときに、試しにDuolingoをやってみる。これもBIOMEと同じく、UIが上手く設計されている。リーディングや作文はもちろんのこと、音声入力のスピーキングに、会話型AIもある。これからの世界はマルチモーダルなゲームになっていく。良きにつけ悪しきにつけ、少なくともいくつかの面ではそうならざるを得ないのかなと思う。
途中サービスエリアで買った赤福を食べながら、水筒のお茶を飲む。相性抜群。ペットボトルのお茶はすぐに冷えるし、茶葉でいれたお茶がいつでも飲めるのはありがたい。この日は東京に戻る途中、夕飯を食べて、静岡県富士市に泊まった。
12月31日
朝、ホテルの駐車場へ行くと、昨日は見れなかった富士山がくっきりと姿を表していた。こころなしか冠雪が少ない気もするけれど、冬晴れの富士山は眺めるだけで、少し胸がすく。お茶用にと、前日に1リットルのお水を買っていたものの、晴天にも恵まれて暖かかったので、この日はお茶はつくらず。行ってみたかった富士山天然水SPA サウナ鷹の湯へと向かう。朝の時間は地元の人たちの馴染みの場所としての顔も垣間見えて、なんだか落ち着く。この日は調整中でバレルサウナには入れなかったけれど、もくもくと水蒸気が立ち込める高温高湿サウナに何度も出入りした。東京に戻って、いつも通っているラーメン屋で年末の挨拶をして、冷たい黒烏龍茶を飲みながら自宅へと帰った。
白井瞭
トランスローカルマガジンMOMENT編集長/リ・パブリックディレクター。佐川町立図書館さくとの情報環境設計、福井市を舞台とする小さなデザインの教室XSCHOOLや環境省主催の人材育成プログラムmigakibaの企画運営などに携わる。2024年10月に刊行した『MOMENT 04:つくりかたをかえる』では、さまざまなつくり手を訪ねたインドネシア・バリ島のバイク旅、山形県大江町での採集とインクづくり、福岡県広川町で久留米絣の「色」を見出す滞在制作など、自分たちの取材や制作の方法も大きく変えながら、これからのつくりかたを探る。
送ったお茶たち
① 台湾 凍頂烏龍茶
② いろんな岩茶の寄せ集め
③ 紅茶・九曲紅梅