茶酔旅行記 — 2024年台湾【中編・台中】

2024年11月に行った台湾の旅の記録です。

前編はこちら
茶酔旅行記 — 2024年台湾【前編・台北】


明日から台北を出て、台南方面に移動する。
その途中、台中で茶山を見ることになっていた。
台湾の内陸には阿里山や梨山など、有名な高山茶の産地がたくさんある。

台北でのイベントが成功裏に終わり、ようやく頭が台中に回ってきた。
「ちゃんとルートを調べよう」
ホテルのラウンジに集まり、出発前夜に突然、茶屋リサーチ会が始まる。

今回はほとんどツテがなく、茶園に直接行って交渉するスタイルだ。
聞くところによると、飛び込みでも受け入れてくれる寛容な雰囲気らしい。

情報をかき集めていると、どうやら茶園とはFacebookで連絡を取るらしい。
去年の中国ではFacebookは使えなかったので、発想がなかった。
メッセンジャーで挨拶を送りつつ、並行してマップに茶園をピンしていく。

次第に、山道をくねくねと奥へと進んでいくルートが浮かび上がってきた。
茶園はそれぞれ距離が離れているし、どうやら徒歩ではこの工程はこなせなさそうだ。
それに台北から台南への移動の途中で、大荷物なのもネックだった。

これは車がないと無理だ
ということで急遽、タクシーをチャーターする。

バタバタとおおまかなプランが決め、1度夕飯を挟み、細部を確認して寝る。
タクシーチャーターが来なかったらおしまいだ…という不安を抱えたまま、眠りについた。

***

翌朝。
高速鉄道で台中へ向かう。

窓からはのどかな田んぼや山が見える。
台北市街からは見えなかった台湾だった。

台中駅までは1時間ちょっとで着く。
待ち合わせ場所に着くと、時間通りにチャーターした車が現れた。
ほっと胸を撫で下ろす。

運転手さんは話しやすいとてもいい人だった。
英語も話せて、名前はヘギさんという。
ヘギさんの車に乗って、南投方面へと向かう。

南投は茶の名産地として何度も聞いた場所だった。
標識を見ただけで心躍る。
今は冬茶も製茶が終わってひと段落というところだろうか。

焦る気持ちを抑え、いったん山のふもとでご飯を食べる。
ヘギさんも誘ったけど、コンビニで済ませるという。
腹ごしらえして、さらに山の方へ向かう。

もうこの辺りから、窓からはいくつもの茶畑や製茶工場が見える。
うっすら霧が立ち込めるなか、遠くにはどでかい椰子の木が何本もそびえていて、茶畑の合間ではドラゴンフルーツの畑がちらほらと。
林の方には香り付け用の金木犀もある。
幻の楽園を見ているようだった。

途中、小さな茶の博物館があり、せっかくなのでサラッと見ていくことに。
なるべく茶葉に時間を使いたいしなと思い、15分で戻るとヘギさんに伝えると、50分の間違いじゃないのかと何回も確認された。
かなりいい博物館で、20分くらい見てしまった。
いよいよ山奥の製茶場を目指す。

霧深い山をくねくねと奥へと進んでいく。
空気は冷んやりとしていて、ずいぶん高いところまで来たようだ。
話に聞いていた通り、この深い霧と日照時間の短さが、台湾茶のあの香り高さを育むんだ…!と興奮は最高潮に。

ひと山こえて辿り着いたのは家族経営らしい小さな製茶場。
車を停めると、ヘギさんは本当にここなのかと少し戸惑っている。

その製茶場は控えめな雰囲気で飾り気がなく、いい茶を作っていそうな雰囲気がビシビシ出ている。
主人に案内され、彼の父親だというおじいちゃんが事務所で茶を煎れてくれる。
大雑把に煎れる感じも好感で、期待が膨らむ。
そしていよいよ、その時がきた。
煎れてもらった茶を、おそるおそる、一口すする。

その味は…美味しい。
けど、一方で普通だった。

美味しいのだけれど…
美味しいのだけれど、驚きはなかった。
こんなに山奥に来たのだからすごい茶だと思いたくなるが、でも残念ながら、求めている茶ではなかった。
美味しいし、申し訳ないのだけれど…

通例、ここから試飲が何茶葉も出てくる。
しかし、自分たちには時間がなかった。
これは早々に切り上げねばならない。

ヘギさんに「少し外で話せる?」と表に出る。
とにかく端折って話すしかない。

「私たちは茶の会社です」

ヘギさんはびっくりして、すぐあと、妙に納得したという面持ちに。

「申し訳ないのですが、ここは好みに合いませんでした。時間がなく、もうここを発って次の場所に向かいたいです」

すべてを理解したヘギさんは任せろという顔で、一緒に中に戻り、穏当に話をつけてくれた。

そこからはヘギさんとの友情が芽生え、一緒に製茶場を周り、見学し、試飲しては質問し、茶葉を買った。
山のふもとの大きめの製茶場、中腹にある小さな茶園、隣町の茶畑、街中の茶行。
茶葉を求めてさまざまな場所を回った。

ある製茶場ではちょうど、団揉の工程を見ることができた。
団揉とは台湾茶の特徴とも言える工程で、茶葉を丸めて揉み込むもの。
とは聞いていたが実際に見るのは初めてで、華麗な手捌きに感動。
そして可愛らしい点心のようなものが並んでいる…!
茶球というらしい。
茶球、愛らしすぎる…
あのコロコロとした台湾茶はこうやって揉まれて出来るのか。
これからは台湾茶の茶葉を見るたびに、茶球を思い出してしまうだろう。

製茶場の方に教えてもらい、夕飯は地元の人気店へ。
ヘギさんも一緒に食べるよね?と聞くと「もちろん!」と即答。
一緒に円卓を囲んだらもう完全に友達だ。
食後にアイスを食べて、LINEを交換した。

最後にターミナル駅まで送ってもらう。
長い1日だった。
ヘギさん、本当にありがとう。
駅に到着し車から降りると、日本からのお土産を渡した。
次来る時は絶対連絡するね。
LINE知ってるし!

再び大荷物を抱えて高速鉄道に乗り込む。
窓の外には一度も立ち寄らなかった台中の市街地が遠くに見える。
夜の台中は真っ暗だった。
高速鉄道は最後の目的地、台南に向かって進み始めた。

後編はこちら
茶酔旅行記 — 2024年台湾【後編・台南】


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