茶酔旅行記 — 2024年台湾【後編・台南】
2024年11月に行った台湾の旅の記録です。
前編はこちら
茶酔旅行記 — 2024年台湾【前編・台北】
中編はこちら
茶酔旅行記 — 2024年台湾【中編・台中】
夜10時。
台南駅に降り立つと、南国だった。
空気からぜんぜん違う。
台北に着いた時も南国だと思ったけど、南国の中の南国に来たようだ。
ホテルに向かうタクシーの中から台南の街並みが見える。
台北に比べて建物が低くてどこか風情がある。
台南が一番歴史があるらしい。
かつてはオランダ領。
そして日本による統治。
街にはラウンドアバウト(環状交差点、くるくる回るやつ)があったり、林百貨店という名前のデパートもあった。
翌朝。
起きて朝ごはんを食べたら、いよいよこの旅の最終目的、野点できそうな場所を探す。
目指すのはウチウチの野点ではなく、通りすがりの人がどんどん参加してくるようなオープンな野点。
土地勘は全くないので、嗅覚だけが頼りだ。
ふらふら散歩していると、公園があった。
そこではおじいちゃんおばあちゃんが集まって麻雀したり、鳥を見たり、談笑したり。
椅子が雑然と並べてあって、思い思いの時間を過ごしていた。
絶対ここだ!
木陰の良さげなスペースを見つけて、いそいそと設営を始める。
水を買ってきて、荷物から茶盤と茶器を出す。
そして公園の中にまとめてある椅子の山からひとつふたつ拝借しようとした、その時。
おじいちゃんにものすごい剣幕で怒られた。
最初は意味がわからず、あっちで椅子を借りたいことを伝えるも、どうやら椅子には所有があるらしい。
見渡すとそこのおじいちゃんおばあちゃんたちはいくつかのグループで固まり、互いには干渉しないようだった。
なんとかして茶を煎れ始めたけれども、全く見向きもされない。
こちらから話しかけに行っても、まるで相手にしてもらえない。
厳しい…
想像してはいたけど、あまりにも武者修行。
あの手この手を試したけど結局どれもうまくいかず、ついに諦めて別の場所を探すことに。
どうやらこれは嗅覚だけではどうにもならないっぽいということで、各方面に情報提供を呼びかけてみて、一旦カフェで武者修行の傷を癒す。
すると、1件の連絡が入った。
茶酔に興味を持ってくれた台南ローカルの人が、知り合いのスペースを紹介してくれることに。
ありがたい…
スペースでは茶も煎れていて、ぜひ話したいとのこと。
優しい…
教えてもらった住所に行くと、標識も何もない、台南の風情ある建物だった。
2階の窓からオーナーが顔を出していて挨拶し、招き入れられて中に入る。
そのスペースは祖先が持っていた建物を自分たちでリノベーションして、ギャラリーやワークショップ会場にしたりしているという。
自己紹介がてら、これまでの経緯を話すとオーナーが一言。
「あそこの公園はおじいちゃんおばあちゃんばかりで、みんなグループになっている」
やっぱりそうだったのか。
完全に場所を間違えてたなあと、ちょっとだけ安心する。
早速茶を煎れてもらう。
出会った人にこうして茶を振舞ってもらうのはやはり良いものだ。
傷に沁みる。
今度はこちらの番。
ローテーションしながら代わりばんこに茶を煎れていく。
日本から持ってきた、いつも飲んでる岩茶を煎れた。
すると、どこかいつもと違う。
美味しいのだけど、いつもの味や香りが出ない。
水が違うかも…?
野点用にコンビニで買った水で煎れてみる。
いつもの味に近づいたけど、まだ少し違う。
でも、どうやら水が違うっぽい。
足元をすくわれた思いだった。
場所が変われば水も変わるし、水が変われば茶の味も変わる。
当然のことだった。
かつてはいろんな水を飲み比べていたけど、日本のペットボトルの軟水を安定して使ううちに、いつの間にか水への意識ががっつり抜けてしまっていた。
台中で買った茶も、日本で飲むともしかしたらまた違う味わいになるなのかもしれない。
とかなんだとか言いながら、今はみんなと楽しく茶を飲む。
友達が参加してきたり、いろんな茶を飲んだり、思い描いていたような理想の茶会になったのを見て、旅のクライマックスに少し感傷に浸る。
なんらかお土産に使うだろうととりあえず持ってきていた栗羊羹をここで渡す。
いろいろ荷物に詰め込んどいてよかった。
また来るね。
***
最終日は台南から台中を通って台北に移動し、空港から飛行機で羽田に帰ってくる。
旅を巻き戻すかのように、来た道をたどって帰る。
あっという間の6日間。
到着ゲートを通ると東京は完全に冬で、季節がひとつ進んでいた。
あったかい湯船を思い浮かべながら帰りの電車に揺られる。
午前中まで南国にいて半袖サンダルで過ごしていたのが嘘みたいだ。
旅の写真やメモの断片を見ながら、日記をまとめ始めた。
(おしまい)